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35Sプロモーター配列特異的なDNAメチル化

 遺伝子組換え植物を作出した時に、外来遺伝子の発現が期待通りに起こらないことがあります。このような現象は、導入した外来遺伝子の染色体上の位置やコピー数、断片化や再編成などの影響が考えられます。シロイヌナズナなどのモデル植物でこれまでに研究された知見により、外来遺伝子の発現抑制(ジーンサイレンシング)現象の基本的なメカニズムが明らかにされ、どのような植物種においても同様のメカニズムが働くものと考えられていました。例えば、外来遺伝子が複数コピー導入されると、導入遺伝子から転写されたmRNAから二本鎖のRNAが作られてしまうことがあり、植物がRNAウイルスから身を守るための働きが生じることによりmRNAが分解されてしまうことなどが知られています。

 私達は、花き園芸植物であるリンドウ(右写真)で、外来遺伝子が1コピーのみ導入された組換え植物であっても、必ず発現抑制が起きてしまう現象を発見しました(Mishiba et al., 2005)。カリフラワーモザイクウイルス由来の35Sプロモーターは、植物の様々な組織で高発現することから、高等植物の遺伝子組換えで最も広く利用されているプロモーターです。この35Sプロモーター配列がリンドウのゲノムに挿入されると、DNA(シトシン)メチル化が生じることにより発現抑制が起こることが、これまでの研究で明らかになりました(Mishiba et al., 2005, 2010)。35Sプロモーターを導入した組換えレタスでも、このようなDNAメチル化による発現抑制が起こり(Okumura et al., 2016)、組換えタバコやシロイヌナズナでは起こらないことから、この現象は特定の植物種で起こることがわかりました(下図)。

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 私達はまた、この現象が35Sプロモーター配列のコピー数やゲノム上の挿入位置にかかわらず起きることを示しました(Mishiba et al., 2010)。さらにリンドウの組換えカルスを使った実験から、発現抑制が起きている35Sプロモーター領域では、ヒストン修飾の変化(ヒストンH3の脱アセチル化、及び9番目にあるリジンのジメチル化など)が生じていることや、このヒストン修飾の直前にDNAメチル化が生じていることなどが明らかになりました(Yamasaki et al., 2011a)。
 現在の研究は、このDNAメチル化の配列特異性がどのようにして引き起こされるのか?また、35Sプロモーター配列中のどの配列がDNAメチル化の標的になっているのか?という疑問を解明するための解析を行っています。T-DNA領域のDNAメチル化状態を解析した研究結果から、35Sプロモーター配列の2領域でde novo(新規)メチル化が高頻度に起きていることが示され(下図)、この2領域が配列特異的なDNAメチル化の標的になることが示唆されました(Yamasaki et al., 2011b)。この2領域に特異的に結合する核因子が存在していることも判明したことから(Mishiba et al., 2010;Yamasaki et al., 2011b;Shimada et al., 2017)、私達はこの核因子がDNAメチル化に関係しているのではないかと考え、単離を進めています。
 さらに、この2領域の片方の、64塩基のDNA断片をリンドウに導入した結果、この64塩基だけでもde novoメチル化を誘導することが出来ることが最近の研究で示されました(Shimada et al., 2017;右図)。ただし、片方の領域のみではメチル化の頻度が低いので、2つの領域がゲノムに導入されることが高メチル化の誘導に必要であると考えています。また、これら2領域に共通して含まれている”GAAGA”という塩基配列を変えてしまうと、リンドウとレタスでDNAメチル化が起こらなくなることも明らかになり(Okumura et al., 2016;Shimada et al., 2017)、この配列に結合する核因子がDNAメチル化の誘導に関与するモデルを提唱しています。
 このような植物種特異的に配列特異的なDNAメチル化が生じる現象は前例が無く、植物ウイルスに由来する配列と宿主植物の核因子との相互作用によって引き起こされる未知の発現抑制現象であることが推定され、このメカニズムを解明することにより、真核生物におけるエピジェネティック機構の進化を知るうえで有益な知見を得ることが期待されます。このような研究で得られた知見から、将来は幅広い植物種に対応する高発現プロモーターの開発や、形質転換が困難な植物種における効率的な形質転換体作出技術の開発につながることが期待されます。
【発表文献】
Mishiba KI, Nishihara M, Nakatsuka T, Abe Y, Hirano H, Yokoi T, Kikuchi A, Yamamura S (2005) Consistent transcriptional silencing of 35S-driven transgenes in gentian. Plant J 44:541-556

Mishiba KI, Yamasaki S, Nakatsuka T, Abe Y, Daimon H, Oda M, Nishihara M (2010) Strict de novo methylation of the 35S enhancer sequence in gentian. PLoS ONE 5:e9670

Yamasaki S, Oda M, Daimon H, Mitsukuri K, Johkan M, Nakatsuka T, Nishihara M, Mishiba KI (2011a) Epigenetic modifications of the 35S promoter in cultured gentian cells. Plant Sci 180:612-619

Yamasaki S, Oda M, Koizumi N, Mitsukuri K, Johkan M, Nakatsuka T, Nishihara M, Mishiba KI (2011b) De novo DNA methylation of the 35S enhancer revealed by high-resolution methylation analysis of an entire T-DNA segment in transgenic gentian. Plant Biotechnol 28:223-230

Okumura A, Shimada A, Yamasaki S, Horino T, Iwata Y, Koizumi N, Nishihara M, Mishiba KI (2016) CaMV-35S promoter sequence-specific DNA methylation in lettuce. Plant Cell Rep 35:43-51

Shimada A, Okumura A, Yamasaki S, Iwata Y, Koizumi N, Nishihara M, Mishiba KI (2017) A 64-bp sequence containing the GAAGA motif is essential for CaMV-35S promoter methylation in gentian. BBA–Gene Regul Mech 1860:861-869

 

本研究は(財)岩手生物工学研究センターとの共同研究です