分子育種とは?

 私たちは、古来より様々な形で植物を利用して来ました。歴史を振り返れば自然のままの植物を利用してきたわけでなく、私たちは植物に様々な手を加えて植物と共存して来ました。例えば、里山や棚田は人の手が加えられなければ維持できません。そもそも農業は、野生のままの自然そのものではありません。植物を人間にとって有効に利用することが農業と言えるでしょう。勿論、農業と自然を切り離して考えることはできず、自然の恵みに感謝して私たちは生きています。それでも、私たちが利用したり、食べたりしている植物の殆どが、人類の歴史の中で人間がその姿、形を変えてきたものです。このような植物は作物と呼ばれ、作物を作り出す過程は、植物の品種改良あるいは育種と呼ばれます。今後も、人類が存在していくためには、植物を理解して、うまく付き合っていく必要があるでしょう。 GM023_L
SN087_L  植物との付き合い方にはいろいろな方法があるでしょう。育種(品種改良)について考えた場合、人間が意図的に育種を行うようになったのは比較的最近のことです。農業の歴史は1万年前以上に遡るとも言われますが、長い間人間は都合の良い性質を持った植物を見つけては、それを増やし、普及させて来ました。計画的な育種が積極的に行われるようになったのは、1900年のメンデルの法則の再発見以降の比較的最近のことです。メンデルの法則から、異なる性質を持つ植物を交配すると、いろいろな性質を持つ子孫が得られることや、性質が規則性を持って子孫に伝わることがわかり、育種は格段に進みました。そのおかげで食糧の増産効率も上がりました。交配に加えて、放射線照射や化学薬品処理によって遺伝子(DNA)に変化を与える変異育種も進められました。
 1953年に遺伝子の本体DNAの構造が明らかになったのに続いて、1973年には遺伝子操作が可能になりました。その約10年後には植物の遺伝子操作(遺伝子組換え)も可能になりました。また、最近では、いろいろな植物のゲノム(遺伝子)解読が進み、その成果を有効に応用しようという動きがあります。このような遺伝子操作技術や遺伝子情報を有効利用した育種方法は植物分子育種と呼ばれます。つまり植物分子育種には、大きく分けてゲノム情報を有効に利用して従来の交配育種を計画的に効率的におこなうマーカー選抜育種と、遺伝子組換え技術を用いた組換え育種があります。 DA154_L
 マーカー選抜育種では、従来であれば目で見たり、測定したりしていた性質を遺伝子のレベルで判断することができるため、選抜を効率的に行うことが可能ですが、基本的には従来の交配育種に基づくため、交配による遺伝子の組換えの範疇を超えたものはできません。もっとも、ゲノム解読やDNAマーカーの整備が進んだことで、複数の遺伝子が関与するような量的形質の遺伝子を特定し、利用できるといった点からも、単に育種がスピードアップするに過ぎないという訳ではありません。計画的に交配育種をデザインすることが可能になってきていて、これからの新しい育種技術として大きな期待がかけられています。
CF150_L  もう一つの組換え育種は遺伝子組換え技術を用いた育種です。遺伝子組換え技術とは、一度遺伝子(DNA)を細胞から取り出して、その配列を試験管内でつなぎ合わせて、新しい配列に変換した後に、再び細胞に戻してやるという方法です。この技術により、育種の可能性が大きく広がりました。交配の出来ない生物の遺伝子を利用したり、交配では起こらない組み合わせの遺伝子配列を生み出したりすることが出来るからです。遺伝子組換え技術を用いて育種された作物はバイオ作物とも呼ばれ、世界の多くの国々で10年以上前から実用化されています。例えば、世界の大豆の6割以上が遺伝子組換え技術を用いて育種された品種です。
 私たちの研究室では、遺伝子組換え技術を用いた分子育種のための基盤研究をおこなっています。つまり植物のいろいろな働きを分子レベルで解明したり、得られた知見を応用して遺伝子組換え作物を作るための研究です。遺伝子組換え作物はGM作物とも呼ばれ、それから作られた食品は遺伝子組換え食品と呼ばれます。遺伝子組換え作物や食品に余り良くないイメージを持つ人は少なくないでしょう。しかし、間違った情報に基づく誤解も多くあります。遺伝子組換え作物についてもう少し詳しく知りたい人は、下記リンクをご参照下さい。
「遺伝子組換え植物」の関連サイト:日本植物細胞分子生物学会