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植物生体防御学グループ

植物生体防御学グループでは,植物病理学領域の研究を行っています。植物病理学は,植物の病気の防除を最終目標とした,基礎研究と応用研究の両方を含む総合科学です。私たちは,特に防除が難しい土壌伝染性糸状菌と植物ウイルスによる病害の防除を目指しています。そのために,病原微生物の形態や遺伝子塩基配列による同定と分類,病原体の生態や進化の解析,菌間寄生菌や発病抑止土壌による生物防除の開発などを行っています。さらに,発病植物組織の遺伝子発現解析や電子顕微鏡観察による発病メカニズムの研究や病原微生物の有効利用に関する研究も行っています。そして,それらの研究をとおして未来の植物医師を育成します。


研究内容

植物病原体の同定と分類は,おもにピシウム菌と植物ウイルスを対象に行っています。これまでに,ピシウム菌 47 種 1,500 菌株以上,植物 ウイルス16 属 200 分離株以上を保存しています。これらは重要な遺伝資源でもあり,国内外の試験研究機関からの分譲依頼にも応じています。

ピシウム菌については,南極や北極の極地域をはじめ,世界中の土壌中からさまざまなピシウム属菌を発見し,菌間寄生性や拮抗性を持つ菌株を利用した土壌伝染病の生物防除についての研究を進めています。また,近年に日本の畑作土壌で新たに問題になっている土壌病害の総合的病害管理についても研究しています。

  • ピシウム属菌の同定と分類(分子生物学的類別の確立)
  • 極地域に生息するピシウム属菌の分類と生態に関する研究
  • 地球温暖化に伴い新たな発生が危惧されるピシウム病に関する研究
  • 弱病原性ピシウム属菌の生物防除への利用

ウイルス病では,電子顕微鏡技術を用いた古典的な解剖学的手法に加えて,分子生物学的手法や最新の網羅的遺伝子解析法により,ウイルス感染による植物の病気がどのような機構で発病するのかを様々な視点から解析しています。また,ピシウム菌に感染する卵菌ウイルスの同定も行っています。

  • ウイルス感染による退緑症状の発病機構の解明
  • RNAウイルスのゲノム進化のモニタリング
  • 卵菌ウイルスの同定と宿主菌への影響の解明
  • ウイルスベクターによる植物遺伝子解析法の確立
  • ウイルスチームの詳しい研究内容はこちらに

研究グループの所在・イベントなど

研究室はB11棟4階の北西側にある 420〜425号室です。学生の構成は,4年生6人,博士前期課程8人,博士後期課程2人です。全員参加の進捗報告(週1回)とカビゼミ(土壌糸状菌関係,週1回),ウイルスゼミ(ウイルス関係,週1回)が定例です。これらのゼミで,各人の研究テーマの背景・世界での研究状況,計画の立て方,実験方法を学び,問題点を議論します。また,定期的なイベントとして,新歓コンパ,講座旅行(夏休み),クリスマス会,お誕生日会,追い出しコンパなどがあります。

私たちのグループでは学内外より広く大学院生を募集しています。植物病理学領域の研究に興味のある方は,担当の教員までメールでお問い合わせください。

大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科 応用生命科学専攻 植物生体防御学グループ
599-8531 大阪府堺市中区学園町1-1 B11棟 422号室(東條),421号室(望月)

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植物病理学

植物病理学(Plant Pathology)

私たち人間がときどき胃腸炎やインフルエンザに罹るように,草花や野菜,樹木などの植物も病気になります。このような植物の病気を対象とした科学が植物病理学です。

植物病理学は農学の一部門を担い,農作物や園芸作物,林木などの有用植物を病気から守り,品質が良く十分な量の収穫をもたらすことによって人間社会に貢献することを主な目的として発展してきました。今後,人口がさらに増加して世界的な食糧不足が予測されている中,植物に病気が発生する原理を追求し,植物を病気から保護するための技術を創り出す植物病理学はさらに重要になってきます。

植物病理学が植物科学の他の分野と違う大きな特徴は,主な対象が病原微生物(病原体)による病気であり,宿主である植物と病原体である微生物の両方を同時に対象にすることです。さらに,環境要因や微生物を伝搬する媒介者(主として昆虫類)など,3者以上を対象にする場合もあります。最近は植物と病原体との相互関係の研究が大きく進み,分子認識やストレス応答,シグナル伝達などの基礎科学領域からも注目されています。分子生物学的な研究によって,病原体がどのように植物に感染するか,そして植物がそれに対抗してどのように防御するのかという仕組みも,詳しくわかりつつあります。それらの新しい発見は,今後の植物保護に新しい技術をもたらすはずです。

植物病理学は長い歴史をもち,基礎から応用までの幅広い分野を含む総合科学です。これまでは,病原体そのものの性質を明らかにしようとする病原学と感染や発病のしくみを解明しようとする感染生理学,発生生態学が中心となって防除技術の発展をもたらしてきましたが,その過程で,微生物学,遺伝学,育種学,分子生物学などの学問の発展にも重要な貢献をしてきました。さらに現在では,植物保護には安全な食品を確保する役割も求められ,地域の生態系や地球環境の保全も期待されています。

植物の病気とは

植物病理学では一般に病気は「植物が健康でない状態を示すもの」とされています。「健康でない状態」をもう少し具体的に定義したのがホースフォールら(1959年)で,「連続的な刺激により植物の生理機能が乱されている状態」としました。つまり,植物の病気とは,ある原因が連続的に作用して起こる植物の異常を表しています。病気の原因となるのが微生物(糸状菌,細菌,ウイルス,ウイロイド,ファイトプラズマ,線虫)である場合を伝染病といいます。また,栄養要素の過不足や水質汚染のような環境要因が原因となる場合を生理病といいます。

病気の防除の必要性

気候が温暖で湿潤な日本は農作物の病害が多く発生しやすい環境にあり,農薬防除を全く行わない場合には病害虫によって,リンゴで90%以上,キュウリやキャベツで約60%,コムギやトマトで約40%,イネやダイズで約30%ときわめて大きな減収を招きます。農作物の病気を防ぐことにより,減収量の一部でも回復できれば,世界規模のレベルでの農作物収量の増加は莫大なものになります。今後に予想される地球人口の急激な増加を考えると,植物の病気の防除は重要な課題です。

さらに詳しく知るために

「植物ウイルス大事典」大木 理,日比忠明 監修 朝倉書店,2015年.わが国の植物ウイルスに関する第一線の専門家が結集し, 植物ウイルスの最新の知見をまとめた大事典.

「植物病理学」大木 理著 東京化学同人,2007年.学部レベルの教科書で最新の内容も盛り込まれている.初めて植物病理学を学ぶための教科書.

「植物病理学」難波成任ら編 文永堂,2009年.植物病理学領域の最新の知見や研究動向が詳しく解説されている教科書.

「植物医科学 -上-」難波成任監修 養賢堂,2009年.臨床的診断・治療・防除・予防など,実践に役立つ内容に重点が置かれている教科書.

「最新植物病理学」奥田誠一ら著 朝倉書店,2004年.都丸敬一ら「新植物病理学」の全面改訂版.学部レベルの教科書でバランスよくまとめられている.代表的な植物病害についての各論もついている

「総説植物病理学」脇本 哲編 養賢堂,1994年.やや詳しい教科書.重要病害についての解説もある

「植物病理学事典」日本植物病理学会編 養賢堂,1995年.日本植物病理学会創立 80 周年を記念して出版された事典で,最新の情報が詳しく盛り込まれている.植物病理学に関係する事項を調べる際に役に立つ.

「植物と病気」大木 理著 東京化学同人,1994年.植物病理学全般についてやさしく解説した入門書

「植物防疫講座 第3版-病害編-,-雑草・農薬,行政編-」日本植物防疫協会編 日本植物防疫協,1997年.主に植物病害防除関係者を対象とした専門書で,発生生態や技術について詳しく記されている.

「Plant Pathology, 5th ed.」G.N. Agrios著 Elsevier Academic Press,2005年.植物病理学の世界的な教科書として有名.図が美しく,最新の研究成果も盛り込まれている.第5版は 922 ページとさらに分厚くなり,大量のカラー図版が加えられた.

「Plant Pathology and Plant Pathogens, 3rd ed.」J.A. Lucas著 Blackwell Publishing,2002年.植物病理学の全体像が,わかりやすく示された良書.図版はカラーではないが,上品で見やすい.

「Molecular Plant Pathology」M. Dickinson著 BIOS Scientific Publishers,2003年.植物の病気についての分子生物学をまとめたやや高度な教科書.

「Essential Plant Pathology」G.L Schumannら著 APS Press,2006年.植物病理学全般についてのトピックスをまとめた教科書で,やさしい英語で読みやすい.

「分子レベルからみた植物の耐病性-ポストゲノム時代の植物免疫研究<新版>(細胞工学別冊 植物細胞工学シリーズ19)」島本 巧ら監修 秀潤社,2004 年.7年ぶりに刊行された新版で,最新の情報が盛り込まれている.耐病性に関するウェブサイトの一覧付き.

「植物ウイルスの分子生物学」岡田吉美著 東京大学出版,1989年.ウイルスの最初の発見から,バイオテクノロジーへの応用にいたるまで,分子生物学の発展とともに急速に進んだ当時の植物ウイルス研究がわかりやすく解説されている.著者は本書の中で,植物がコードするRNA依存RNA複製酵素が抗ウイルス抵抗性への関与していることを既に予測している.

「植物のパラサイトたち」岸 國平著 八坂書房,2002年.植物病理学についてのさまざまな話題が集められている.具体的で迫力のある内容は,農林水産省の研究所などで長年にわたって植物病理学の研究を続けてきた著者ならでは.

「植物の病気」日本植物防疫協会編 日本植物防疫協会,1996年.30名の研究者による研究の裏話をまとめたもので,戦後の研究の生の情報が得られる.

「植物防疫」雑誌.日本植物防疫協会から出されている月刊誌で,病害防除についての技術や行政面での対応などの最新の情報が得られる.