会長メッセージ

portrait_kobayashi 糸状菌分子生物学研究会は新しい世紀(第三ミレニアム)の始まりの年である 2001 年に誕生した研究会で,その設立目的は「糸状菌分子生物学コンファレンス」の主催を通して,我が国における糸状菌研究者が糸状菌というキーワードのもとに 一堂に会せる場を提供することにありました。研究会の立ち上がりの時期に運営委員として運営に携わり,また第 2 回,第 12 回コンファレンスを名古屋で開催させて頂いたこともあり,常に本研究会と身近に接して参りましたが,当初のねらいの通り幅広い分野の糸状菌研究者の交流の 場として認知される研究会に成長したと感じています。研究会誕生の時期はまさに糸状菌ゲノム解析の真っただ中にあり,わが国でも麴菌 Aspergillus oryzae のゲノム解読が行われていました。2003 年には Neurospora crassa の,2005 年に A. oryzaeA. nidulansA. fumigatus のゲノム解析結果が報告され,現在では多様な糸状菌のゲノム情報がネット上で簡単に得られる時代となっています。ゲノム情報の整備は当然のことながら研究 にも大きな影響を与え,いわゆるオーム解析の波が糸状菌分野に押し寄せてきただけでなく,対象遺伝子の同定が簡便になったことにより研究が大きく進展しま した。この大きな転換は,本研究会コンファレンスの演題の変遷にも反映されています。今後も,研究の進展速度は加速度的に上昇すると予測しており,これに 対応するには研究者間の交流や共同研究の展開がさらに重要になってくるもの思われます。
 温暖湿潤な気候が糸状菌の生育に適していたためでしょうか,わが国は古来より糸状菌を醸造・醗酵に利用して日本の食文化を醸成してきました。一方で,梅 雨の語源を黴雨とする説があるように,糸状菌に対しての対策にも悩まされてきたことでしょう。日本は良かれ悪しかれ糸状菌とともに歴史を刻む国であり,だ からこそ,常に世界最先端の糸状菌研究の国であるべきだと考えています。そのためには次世代を担う若い研究者の育成が重要であり,本研究会では 2008 年より優秀学生ポスター賞を設けて魅力ある研究を表彰してきました。2013 年には若手研究者が自発的に「糸状菌分子生物学研究会若手の会」を設立し,産学官の若手研究者ネットワークを充実させようとしています。また,糸状菌研究 は産業に密接にかかわるため,関連企業からそれぞれの企業名を冠した新しい賞を設立する提案がなされ,2013 年から企業特別賞として表彰を行っています。
 これからも会員皆様からの様々な意見を受け入れ,全国の糸状菌研究者のための研究会と誇れるよう努力してまいりたいと存じます。その第一歩として,本研 究会を名実とも全国組織とするために,今まで本州でしか開催されていなかった糸状菌分子生物学コンファレンスを,北海道,九州,そして四国で開催したいと 考えています。糸状菌というキーワードでくくるとそれぞれの地域の関連研究室は限られてきますので,コンファレンス開催には会員の皆様のご協力が欠かせま せん。是非ともご支援のほどをお願いいたします。また,研究会設立当時の将来目標には,Fungal Genetic Conference,European Conference on Fungal Genetics に匹敵するアジア版の糸状菌遺伝学会議を,本研究会を中心として開催するということもありました。気候と食文化を見れば明らかなように,東アジア,東南ア ジアにはわが国と同じく糸状菌とともに暮らしてきた国が数多くありますので,このような国際会議の開催についても機会を見ながら積極的に対応していきたい と考えています。 最後になりますが,糸状菌に興味を持たれる多くの方々の本研究会への入会をお願いするとともに,ご希望やご意見等がありましたらお寄せいただきますようお 願いいたします。

平成 26 年 7 月 4 日
糸状菌分子生物学研究会会長 小林哲夫