会長メッセージ

 糸状菌分子生物学研究会は、糸状菌の機能や生理、進化等について、日頃多様な側面から研究をしている研究者が一堂に会し、情報交換を行うことができる機会を提供することを目的に 2001 年に創立された研究会です。我が国の「国菌」である麹菌はもちろん、アカパンカビ、植物病原菌、医真菌、木材腐朽菌、きのこ類など多様な糸状菌を対象に日々研究をしている研究者に、「糸状菌分子生物学コンファレンス」にお集まりいただき、議論することで、それぞれの分野に埋め込まれた知識や知見を発掘し、それを活用あるいは統合することで新たに研究が進展しています。インターネットの発達した今日、異分野の情報にアクセスすることは容易になっていますが、ポスター発表、口頭発表、懇親会で直接語り合う「場」はとても重要であると考えています。特に、学生を含む若手研究者、企業研究者にも気軽に参加いただく環境を整えています。2008 年から、優秀学生ポスター賞を設けて魅力ある研究を表彰してきました。また、2013 年には若手研究者が自発的に「糸状菌分子生物学研究会若手の会」を設立し,産学官の若手研究者ネットワークを充実させています。さらに、糸状菌研究は産業に密接にかかわるため,関連企業からそれぞれの企業名を冠した新しい賞を設立する提案がなされ,2013 年から企業特別賞として表彰を行っています。今後も、多くの研究者がご入会くださり、コンファレンスにご参加、積極的に議論を重ねていただくことを期待しています。
 研究会が創立された頃、糸状菌研究に関わる分子生物学的手法は成熟し、新たな局面としてゲノム解析が注目されていました。2003 年には Neurospora crassa の,2005 年に Aspergillus oryzaeA. nidulansA. fumigatus のゲノム解析の完了が報告され,その後、ゲノム情報の活用で糸状菌研究が進んできました。近年では、SMRTシーケンシングが比較的安価でできるようになり、もはや、菌株ごとあるいは変異株ごとのゲノムシーケンシング、比較が可能な時代になっています。CRISPR-Cas9 システムに代表されるゲノム編集技術の潮流は、遺伝子破壊などが比較的容易であった糸状菌においても、遺伝子機能解析研究を加速させています。このような研究手法の急速な進展はこれまで明らかにできなかった糸状菌の機能や生理を解明することにもつながり、最近のコンファレンスでの発表でも、これらを応用した発表が多く見受けられます。
 研究手法の進展の速さには目を瞠るものがあります。このスピードを見るに、糸状菌分子生物学研究会の 18 年間も伝統になりつつあります。この伝統を大切にしつつ、5 年後、10 年後の糸状菌研究はどのような環境になっているのか、コンファレンスで皆様と議論できる機会を楽しみにしています。

平成 29 年 7 月 4 日
糸状菌分子生物学研究会会長 有江 力